白いTシャツとブルージーンズ Ⅳ2016年02月12日 14:33

ブログ内容がボクシングネタになってから閲覧数が急下降しております(笑)。しかしながら朝日新聞、朝の連載小説「春に散る」、いよいよ序段における起承転結の「転」まで来た感じで目が離せません。

手前味噌ですが、なんだか展開予想、我ながらかなり良い線を行ってます。ショーゴ君、次郎と仁さんに両肩を支えられ、トボトボと歩いて「チャンプの家」に向かいます。パトカーは来ましたが警察には捕まらずにすみました。

まず、ショーゴ君の素性として「素直」という表現が出てきました。仁さん、「こいつ意外と素直な奴かも」・・・みたいなセリフがあります。「白いシャツ」の「ストレート」を打ち込んでくる若者は、「素直」でなければいけません。

 ここ、実はスゴく重要です。沢木さんならではの、人生訓です。

 素直な人は、良い師匠に恵まれれば、そして自分がパッションを注げる対象に出会いさえすれば、強烈に伸びるんです。そりゃあ、ショーゴ君、今はダメです。60歳の仁さんに、いい左クロスもらって、ノビてしまいましたから。でもこれからです。

素直、というのはものすごく大切な美質です。これに対してダメなのは、ヒネた人。気位の高い、単なる勝ち気。例えば、ある先達とあることについて会話をしているときに「あ、オレ、それ知ってますから」とか言うタイプ。これだとその先達さんは、「何じゃコイツ」と思ってその先、何も教えてはくれません。人生の大損失です。 
 勉強できて、いい大学出て、事務処理能力も高くて、仕事もすごくできるんだけど「どうも人(友達、先輩後輩、お客さん)が寄ってこない」。そういうタイプの人がいるでしょう。男でも女でも。素直な人は、回りの人が、いろいろと気に掛けて助けてくれるもんです。
 勉強(暗記して吐き出す作業)が得意であることと、仕事の事務処理能力が高いことと、人間としての本質的な賢愚は、分けて考える必要があります。

但し、生来のヒネクレ者が素直になることは難しい。人間の性根は、そんなには変わりません。そこで無理をすると、自分を殺すことにもなりかねないから、要注意です。ヒネ者はヒネ者なりに成長する、ということもありますので。

さて、小職、ボクシングオタクとして、この小説の初回から「早く教えてくれよお~~~」とかねがねイライラしていたのは、4人の老ボクサーのキャリア。これまで各人とも世界戦の経験があるような、ないような示唆だけで、大変ボカした書き方でした。
 そして現時点では、ショーゴと4人の老ボクサーは、お互いの素性を知りません。これでは師弟関係は築けません。なので、明日の連載から、相互の自己紹介のような形で、彼らの素性が明らかになります。ようやく。

何しろ天下の朝日新聞ですから、そんなにボクシングオタクの内容には踏み込めない。他方、ある程度、細かく書かないと、ノンフィクションとは言えリアリティがない。その間をどうとるか。なかなかに微妙です。

さて各人のキャリアです。ここは興味深い。それぞれ、現役時代にどんなボクサーだったのか????

仁さんは主人公だし、格好いいキャラ。自分で自分のことは話したがらない。高倉健さんみたいに寡黙です。なので比較的ファンキーなキャラのサセケンあたりが仁のキャリアを語ります。こんな感じか?↓

ショーゴ:オレ、あんなスゴイ左クロス、初めてもらいました。
サセケン:「バカ野郎、当たり前だ、仁はよ、ウエルターで世界ランキング9位までいったんだぞ(タイトル戦、負けたけど)」etc。

ここで各人のキャリアがそれぞれ明らかになります。しかしあくまで主人公は仁さんですから、あとはだいたい、というところで。ただ皆さん、「世界チャンプになれなかった」というくらいのトップランクのボクサーですから、日本チャンプ、あるいはその上位ランカー、さもなくばOPBF(東洋太平洋)チャンプ、そのランカーくらいまでは上り詰めた、という線かと。

ここでショーゴ君、ビックリです。ぶっ飛びます。プロのライセンサーとは言えキャリアの不足するショーゴ君から見たら、世界ランカー、OPBFランカーというのはまさしく雲の上の存在。
 この世界、多くのボクサーは6回戦、8回戦くらいでリングを去るのであって、日本タイトル戦あたりのリングでメインイベンターを張るボクサーなんて、ほんの一握りの中の、さらに一握りだ。
 ショーゴ君、バイクで例えれば、筑波サーキットでBライとって125ccのプロダクションやってたレベルのライダーが、鈴鹿サーキットで、いきなり8耐のファイナリスト、国際A級ライダーに遭遇してブチ抜かれた・・・、てな感じだ。もう、アコガレ、なんてもんじゃありません。まさに天上人です。

そんなわけでショーゴ君、次第に、この4人の老ボクサーに心酔していきます。まして根が素直だから、砂地が水を吸い込むように4人のボクサーのテクニックを身につけていく・・・。

今後の展開ですが、4人のボクサーが、それぞれ自分の得意とするテクニックをショーゴ君にたたき込みます。その伏線がだんだん明らかになってきました。

ん?どんなテクニック?
4人ともそれぞれテクニシャンですが、いろいろと伏線がありますね。
まずキッド、最初のサングラスの若者をレバーブロー1発でダウンです。なので彼はボディブローを教える。次、サセケンは当然、閃光のようなジャブの3連発。仁さんは主人公ですから、ストレートと、そして伝家の宝刀、クロスカウンターでキマリです。またディフェンス全般も、仁さん担当ですね。先代会長ゆかりの「打たれないで打つ」ボクシングを継承しているのは仁さんです。

アレ?パンチ、ひとつ抜けてますね。まだこの小説で語られてないパンチと言えば?そうです。アッパーですね。となると、それを教えるのは次郎さんです。次郎さんはアッパー打ちなんじゃないかな。

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さて、ここから、この小説のタイトル「春に散る」に結びつく、極めて重要なメッセージ、このストーリイのモチーフが展開していくでしょう。

「散る」とは、人の人生で言えば「死」を意味する。仁さんは、ハートアタックの持病があり、その死を予感させます。

しかし。

「散る」前には必ず「咲く」があるわけです。それが自然の摂理です。4人はやり残したことを、これからやる。それが「咲く」です。老いて、枯れて、死ぬ。その前に、最後に「咲く」・・・。

「何」をして「咲く」?

伏線がありました。
「みんな、これから何をするんだ?」
キッドは、亡き奥様の散骨、と答えました。呑気なサセケンに至っては「家庭菜園」です。次郎さんは何も語りません。仁さんは、何をやるのか、何もないよ、みたいなことを言う。

「散骨」や「家庭菜園」が「咲く」なのか?
それで人生を終われるのか?
それはあり得ない。それはあまりに寂しい。
彼らは、もとボクサーなんだ。
青春をリングに捧げた人たちなんだ。

ショーゴ:オレに、ボクシング、教えてくれませんか?
この一言で、4人の老ボクサーの気持ちがひとつになります。

老境を迎えて。
「オレ達はどうやって「咲く」んだ?そうだ、それなら、みんなでショーゴを鍛えてみようよ・・・」

これが誰のセリフになるのか、それはわかりません・・・。

人として「散る」。
それは避けられない。
人として生まれて、死ななかった人はいない。

    だけど、60歳を過ぎてもなお、「咲くことはできる」。

ここで、人生の老境を迎えた人たちに贈る、沢木さんのエールが高らかに鳴り響くわけであります・・・・・・・・・。

老境を迎え、自分の人生を振り返って、最後に「咲く」、ということは、自分の少年時代、青春時代に戻っていくことなんだ、というメッセージなのかも知れません。

だとすれば、少年時代、青春時代はとっても大切だ。その時代を疎かにすることはできない。その時代をマトモに生きていないと、年老いてから、戻っていく場所が見つかりませんよ・・・それも、沢木さんのメッセージなのかも知れません。

なので。

若い皆さん。ショーゴ君世代の皆さん。その点をシッカリ心に留めて、今現在の少年時代、青春時代を過ごしてください。

お受験のお勉強なんかしているヒマは、ないのかも知れませんよ・・・。

てなことで、また。